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仙台高等裁判所秋田支部 昭和57年(う)28号 判決 1982年12月27日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人奈良の弁護人加賀谷殷、被告人〓松(以下、若松と表示する。)および同芳賀(以下、芳賀と表示する。)の弁護人加藤堯作成の各控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官瓜生貞雄作成の答弁書二通に記載のとおりであるから、これらを引用する。

被告人奈良の弁護人の控訴趣意中訴訟手続の法令違反の主張について

所論は、被告人奈良に対する起訴状記載の各公訴事実は、被告人奈良は、いずれも大館市議会議員であつた遠藤徳一、相被告人若松および同芳賀の三名に対し、いずれも昭和五六年五月に行われる予定の大館市議会議長選挙(以下、本件議長選挙ともいう。)の際は、自己を大館市議会の会派である政和会の推す議長候補者として選出したうえ、同市議会において議長に当選せしめるよう請託して各現金一〇万円の供与の申込みないし供与をしたとされていたのに対し、原判決は、右請託につき、(1)本件議長選挙に先立つて開かれる同会派推薦の議長候補者選出のための同会派会合において、自己が右議長候補者に選出されるよう自己に一票を投じ、(2)自己が右議長候補者に選出されたうえは大館市議会において自己が議長に当選できるように自己への投票等をしてほしい、(3)また、他の政和会所属議員に対しても右同様の行動をとるよう勧誘してほしい旨請託をしたと認定したが、右のうち(3)の他の議員にも右のように勧誘してほしい旨とある点は、起訴状の公訴事実に記載がないのに訴因の追加的変更の手続がとられず、被告人・弁護人に攻撃防禦をつくさせずに認定したものであつて、原審の訴訟手続には法令の違反がある、というのである。

そこで記録を検討すると、被告人奈良に対する起訴状記載の公訴事実中、本件各贈賄の各請託に関する記載およびこの点に関する原判決の認定した事実は、いずれも所論指摘のとおりであるところ、起訴状記載の公訴事実中、本件各贈賄の各請託の内容が、具体的にどの範囲の事実を指すのかについてはやや明細を欠く嫌いがあつたところ、原審の第一三回公判調書によれば、原審は、同公判期日において、一旦終結した弁論を再開したうえ、検察官に釈明を求め、これに対して検察官は、公訴事実に「政和会の推す議長候補者として選出したうえ」となつているのは、議長選挙に先立つて開かれる政和会の会合における投票による議長候補者の選定をいい、請託の内容たる「議長候補者として選出したうえ同議会において議長に当選せしめるよう」とあるのは、被供与者自身がそのように行動することはもちろん、他政和会所属議員に対しても勧誘してほしいという趣旨であり、いわゆる投票買収、運動買収の双方を含む旨釈明したこと、これに対して弁護人側で異議の申立てをした形跡のないことが明らかである。これによれば、所論指摘(3)の他の議員にも同様の行動をとるよう勧誘してほしい旨請託した点は、本件贈賄の訴因に含まれ攻撃防禦の対象になつていたものといわなければならないから、原審の訴訟手続にはなんら所論のような訴訟手続の法令違反があるとは認められない。

論旨は理由がない。

被告人奈良の弁護人の控訴趣意中事実誤認の主張および被告人若松、同芳賀の弁護人の控訴趣意(事実誤認の主張)について

被告人奈良の弁護人は、被告人奈良は、遠藤徳一、相被告人若松、同芳賀に対し各現金を渡す際の原判示請託について、被告人奈良は相手方に対し政和会会派内における大館市議会議長候補者として選出されるように要請したことはあるが、その余の同市議会における自己のための投票の依頼をしたこと、他の議員に対し同様な行動をとるよう勧誘してほしい旨依頼をしたことはない、政和会は大館市議会内においてその所属議員の過半数を大きく上回る議員数を擁していたばかりでなく、政和会内には同会派所属の議員は同市議会議長選挙においては政和会で選出した推薦議長候補者(以下、政和会の議長候補者ともいう。)に投票しなければならないとの不文律があつたから、政和会の議長候補者に選出されれば自動的に市議会において議長に選出されることが確定するから、右の市議会における投票の依頼とか、他の議員にも同様な行動をとるようにとの勧誘を依頼する必要は全くない、そして、政和会内における市議会議長候補者の選出は同会派内の政治活動であるにとどまり、市議会議員としての職務行為と関係がなく、少くとも議員の職務権限と密接な関係を有するものではないから、被告人奈良の本件各行為は贈賄(贈賄供与の申込みないし供与)に当るものではない、というのであり、

被告人若松、同芳賀の弁護人は、さらにさかのぼつて、相被告人奈良が本件議長選挙に立候補する意思は明確でなく、一時その前段階としての立候補の希望をもつたことはあるが、間もなくこれを断念したもので、結局本件は、相被告人奈良の政和会内部での勢力拡張運動の一環であつて被告人若松、同芳賀の市議会議員としての本件議長選挙の職務に関するものでも、これと密接に関連するものでもなく、したがつて相被告人奈良は被告人若松、同芳賀に対し本件議長選挙に関し原判示の各請託をしたことはなく、被告人若松、同芳賀にはその旨の認識はなく、また相被告人奈良と被告人若松、同芳賀との間に授受された各一〇万円は、本件議長選挙に関連した報酬でないから、被告人若松、同芳賀の両名の行為は(受託)収賄に当るものではない、というのである。

しかし、原判示のかかげる関係証拠を総合すれば、原判示被告人奈良の遠藤徳一、被告人若松、同芳賀に対する各贈賄(賄賂供与の申込みないし供与)および被告人若松、同芳賀の各受託収賄の事実は、各所論指摘の諸点を含めて優に認めることができ、各所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果に照らしても、各所論のような事実の誤認があるとは認められない。原判決が、争点に対する判断として、詳細に説示しているところは相当と考えられるが、若干付言する。被告人奈良が、当初昭和五六年五月半ばころに予定されていた(実際には同年六月一九日施行)大館市議会議長選挙に立候補する意思をもつていたことは、同被告人が捜査段階のみならず原審(および当審)公判廷においても明言しているところであり、被告人若松、同芳賀も捜査段階から原審第一回公判を通じて争わず、証拠上も疑いがない。この事実と、本件当時本件議長選挙が次第に近づきつつあつたこと、ほかに当事者間に現金を授受する理由のないことなどを併せ考えれば、証拠上明らかな、被告人奈良から大館市議会議員である被告人若松、同芳賀らへの本件各現金の交付が本件議長選挙に関連するものであり、その際被告人奈良が本件議長選挙への立候補の意思をもつていたこと、被告人若松、同芳賀がそのことを認識していたことはいずれも明らかというべきであり、それが単に政和会内部における被告人奈良の勢力拡張運動の一環であるにとどまるとはいえない。なお、被告人奈良が、本件の被告人芳賀に対する犯行の直後、政和会幹部の説得に応じ、不本意ながら本件議長選挙への立候補を断念し、それに代つて副議長選挙に立候補することにしたことは証拠上明らかであるが、そのことはそれまで被告人奈良が本件議長選挙への立候補の意思をもつていたこととなんら矛盾するものではない。

そして被告人奈良から被告人若松、同芳賀らに対し本件の各現金を交付するに際し、原判決の摘示する請託行為のうち、前示(1)の政和会内において自己が議長候補者に選出されるよう一票を投じてほしい旨要請したという限度では、被告人奈良もほぼ認めるところであり、証拠上動かし難い事実である。その際、被告人奈良が、さらに明示的に前示(2)の大館市議会における投票等の行為、(3)の他の議員への勧誘行為までも要請したかどうかは証拠上十分に明らかとはいえない(もつとも、被告人奈良の捜査官に対する各供述調書によれば、同被告人は、遠藤徳一に対しては、「議長選に立候補するので協力してほしい」旨、被告人若松に対しては「議長に出ようと思つているので何とか一つ頼む」旨、被告人芳賀に対しては「議長選挙のことで頼みにきた」旨要請したことが窺えないわけではなく、これらの言葉は、前示三つの請託内容を集約した表現と理解する余地が全くないわけではない。)が、そもそも大館市議会議長の選出・就任は、市議会で行われて決定するのであつて、政和会内部での議長候補者の選出はそのための準備的行為にすぎず、それが事実上いかに有力な方法であるとしても、市議会での選出を離れては意味をもち得ないのであるから、請託の趣旨として考える以上、政和会内部における選出のための要請と市議会における選出のための要請とはほとんど不可分一体をなすものというべきであり、これを切り離し、前者だけは要請したが後者の要請はしていないとするのはきわめて不自然でもあり、不合理でもあること、また当時政和会所属議員が大館市議会における議員の過半数を大きくこえており、かつ同会派内において同会派所属議員は、政和会の議長候補者が選出された以上個人的な支持のいかんにかかわらず市議会においては同候補に投票するとの不文律があつたことが証拠上認められ、したがつて政和会内において議長候補者として選出されれば、そのまま市議会においても同一人が議長に選出されるのが通例であつたことは認められるが、政和会内部における議長候補者の選出と市議会における議長の選出とは、手続上はあくまでも別個であり、また実際問題としても、前者における投票数と後者における投票数とが常に同一結果になるとの保証があるわけでもないことは原判決の説示するとおりであるから、議長たらんとする者にとつては政和会内における議長候補者の選出につき協力を要請するほかに、市議会における議長の選出につき協力を要請する理由も必要も十分あることなどからすれば、本件における被告人奈良から被告人若松、同芳賀らへの各現金の交付に際して、政和会内部における議長候補者への選出についての請託と合わせて前示(2)のような大館市議会における議長選出についても請託があつたものと認めるべきものである。また、議長たらんとする者にとつて、直接の相手方から自己のため投票等をして貰うほか、他の議員にも同様働きかけて貰う必要があることはいうまでもないから、前示(3)の請託も同時にあつたと認めるのが相当である。そして、以上説示したところからすれば、大館市議会議員の立場にあつた被告人若松、同芳賀の両名が、以上の請託のすべてにつき認識を有していたと認めるに十分である。被告人三名の捜査官に対する各供述調書中、これらの請託がありまたその認識があつたことを認める旨の供述は、以上の点からみて十分信用できると思われるのに対し、右認定に沿わない原審および当審公判廷における各供述部分は不自然・不合理というべく、そのまま信用することは困難である。

なお、本件請託のうち、政和会内部における議長候補者の選出行為についても、被告人若松、同芳賀の大館市議会議員としての職務行為そのものではないが、これと密接に関連を有する行為として本件贈・収賄における大館市議会議員の職務に関するものと解すべきことは、原判決の説示するとおりである。

各論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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